頼綱《よりつな》は運転席に乗り込むとすぐ、私に覆い被さるようにしてシートベルトを掛けた。
そうして門前で何なく向きを変えて音もなく車を発進させる。頼綱が近づいてきた瞬間、ふわりと鼻先をくすぐった爽やかな香りに、頼綱の匂いだと嫌でも実感させられる。
そうして柄にもなく私、ドキドキさせられるの。
「あ、あのっ」寛道《ひろみち》が道端に呆然と佇んでいるのを窓越しに見るとは無しに見送りながら、戸惑いを払拭するようにずっと気になっていたことを口にした。
「おっ、お昼は櫃《ひつ》まぶし、だよね?」
言ったと同時にガチャッと集中ドアロックがかかって、私は思わず身体をすくませる。
「ご飯……食べさせてくれるっていうの……嘘だったの?」わざわざ鍵を掛けて逃げられないようにされたってことは……きっとそうなんだ。
お腹空いてるのにっ。ご飯だって言うからついてきたのにっ。
「頼綱の、バカ」
まんまと罠にハマった気がして……慌てて窓外に視線を流す。
それで、ぐんぐんスピードが上がる車から今更途中下車なんて出来ないって悟った私は、余計に悔しく思ったの。視線を車内に戻した私は、せめてもの抵抗にと恨みがましい目で頼綱を見つめた。
「ねぇ花々里《かがり》。何故いきなりそんな展開になるんだい?」
すっかり魔王に攫われたお姫様気分に浸っていた私は、呆れたようにそう問いかけられてもピンとこなくて。
「飯を食いに連れて行かないなんて、ひとことも言ってないんだけどね?」
前方を見据えたまま、溜め息まじりに付け足す頼綱に、私は「だって……鍵が……」と訴える。
「もしかして、集中ドアロックが掛かったのが不満だったの?」静かに問われて、私はコクンとうなずいた。
「これは仕様だよ、